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皆さん、おはようございます。
京都市新京極入り口の阪本漢方堂です。
奈良国立博物館で、第72回正倉院展が開催されていました。皆さん見に行かれましたか?
正倉院の宝物の一つ、フエルト(フェルト)の敷物「花氈(かせん)」を見てみますと、奈良時代からの気の遠くなる時間を経ても、今の時代でも違和感ないデザインだと、心揺さぶられました。(又は感じ入りました)
他に奈良時代に流行した絞り染め、纐纈(こうけち)の上着が2つ出展(公式広報物には出陳と表示)していました。
一つ目の上着では、文様を示す青色が植物の藍から、赤色は紅花(べにばな)が染色原料に使用していること。(*1)
二つ目の上着では、文様の赤みが強い所は紅花が、黄色の所は紅花と黄柏(キハダ)を染色原料に使用していること。(*2)など知りました。
これら藍も紅花も黄柏(キハダ)も漢方生薬としても使用されることから、今朝は「染料と薬草」について取り上げてみましょう。草木染をなさる方に耳よりの情報ですよ。
赤色系の染料として4種類紹介しましょう。
まず紅花(べにばな)はエジプト原産のキク科の植物で、日本には奈良時代に入ってきたと云われています。古くから染料や口紅として、また現在では食品の着色料としても使用されています。漢方では紅花(べにばな)と書いて紅花(こうか)と呼びます。痛みや、血の滞りの改善の目的に使います。配合される代表的な漢方薬に天恵実母散(てんけいじつぼさん)があります。
お腹が冷えて痛んだり、同様に足腰が冷えて身が引きつったり痛んだりする方、肩こりに頭痛、それに眩暈(めまい)やのぼせ、更年期の時期の身体の不調、ヒステリーを起こしてしまうなどのお悩みの方に、評判がいいのです。
次は茜染めでも有名なアカネ科のアカネです。工藝染料としてはセイヨウアカネが用いられています。漢方ではアカネ根を茜草根(せんそうこん)と呼び、鼻血や子宮出血など止血目的や、無月経や出産後の悪露に用います。
同じ赤色系として今回の正倉院展に薬と染料として紹介されていましたのは蘇芳(すおう)と紫鉱(しこう)です。
蘇芳(すおう)はマメ科の植物で、生薬名を蘇木(そぼく)と呼びます
古来我が国に限らず、中国、南アジアでは赤色の色素材として重用されてきました。正倉院において木材、皮、布紙まで多くの蘇芳染め宝物が保存されています。
私の興味をひいたのが、この蘇芳の赤色染めには、黄柏(キハダ)や鬱金(ウコン)を下染めすることでした。キハダやウコンは後ほど紹介します黄色系の染料になりますし、漢方でもよく登場する生薬だからです。
赤色系最後は紫鉱(しこう)です。
カイガラムシ科のラックカイガラムシが樹木に分泌した膠物質で、別名を花没薬(はなもつやく)とも云います。奈良時代、エンジ(臙脂)色として盛んに用いられました。正倉院には、象牙をこのエンジで染めて、撥彫り(ばちぼり)を施した撥鏤(ばちる)と云われる技法を用いた宝物があります。(*3)
現在でも絵の具や食品の着色料、錠剤のコーティング剤セラックの素になります。
黄色系として黄柏(キハダ)、クチナシ、ウコンを紹介しましょう。
まず黄柏(キハダ)は、ミカン科の植物、高木で木の皮(樹皮)剝ぎ取ると黄色をしているのでキハダと云われる訳です。この黄色の染料には防虫効果がありこれで染めた写経用紙が正倉院にのこされているとのことです。漢方では黄柏(おうばく)と呼び、消化不良、下痢、軟便の時に使用するダラスケ・陀羅尼助丸(ダラニスケガン)に配合されています。
同じく黄色系染料として飛鳥時代から知られていたアカネ科のクチナシの実です。
今もお正月の栗きんとんを作る時や、漬物のタクワン等の食紅としても活躍しています。
生薬名を山梔子(さんしし)と呼ばれ、解毒の働きや、粘膜の炎症やのぼせ、イライラ、鼻血など熱症状の改善の働きとして用います。
最後の黄色系として、ショウガ科のウコンが有ります。カレー粉にターメリックとして配合され黄色の主原料にもなっています。
本日紹介しました赤色系や黄色系の他に紫色や青色系の染料になる漢方生薬、薬草も有ります。100gや50g単位で小分け販売出来るものもございますので、皆さんの周りに、草木染、薬草染めに興味の有る方がいらっしゃいましたら是非教えてあげて下さいね。阪本漢方堂のいつもと違う利用法ですよ。
相談の出来る薬局 阪本漢方堂
*1 縹纐纈布袍(はなだこうけちのぬののほう)
*2 纐纈布袍(こうけちのぬののほう)
*3 紅牙撥鏤(こうげばちるのばち)
参考資料:「漢方のくすりの事典」医歯薬出版株式会社
図説正倉院薬物 監修柴田承二 宮内庁正倉院事務所編 中央公論新社